皆それぞれに分担があった。
「カッパ」はYAMAHAルータの設定。「死にかけ」はサーバの組み立てと雑用。「坊ちゃん」はPerlプログラミング。
「好青年」はサーバの設定・Ciscoルータの設定・会員管理システムの構築と中枢の殆どを担当していた。
僕も何かで自分の居場所を作る必要があった。
パソコンが無くてもインターネットができるようにセットトップボックスを無料で配るという話が持ち上がった。
セットトップボックスとはテレビに接続するビデオデッキのようもので、電話線をつないでテレビでインターネットをすることができる。
そのセットトップボックスに小綺麗なメニュー画面が必要となった。
「絵は描けるか?」とカッパが聞いたのでチャンスとばかりに頷いた。
それから家でも会社でも必死でメニュー画面を作った。コンピュータを使って絵を描いた経験は無かったのでPhotoshop、Fireworks、Shadeなんかのソフトを1から勉強しながら描いた。
カッパ達は僕の描く絵に感心してくれたのでホッとした。
この時に「グラフィックソフトは絵が描ける人の能力を助けてくれるに過ぎない」という事を思い知った。絵が描けなくとも、優秀なソフトを使えば、魔法のようにスゴイ絵が生み出される訳じゃ無い。所詮身の丈にあった絵が描けるだけ。絵を描く人間の頭にイメージが明確に無ければソフトはそれを助けようが無い。
色々なソフトを試した結果、プリンタのおまけで付いてきたドローソフトで描いた絵が結局一番良かった。
社長にも気に入って貰えてメニュー画面に採用された。
結局セットトップボックスは配られなかったが(世の中でもインターネット用のセットトップボックスは一時のあだ花として忘れられていった。知る人は少ない。)
僕とは別のアルバイトがC言語で作成したVoIPの課金プログラムがあった。
そのアルバイトはあまり会社に顔を出さないので「カッパ」はプログラムのメンテに難儀していた。
「C言語できるか?」
僕は訓練所で1年間C言語を学んだばかりだったので多少自信があった。
「カッパ」の求めるメンテを行った。
C言語ができることは「カッパ」には好評だった。「カッパ」はPerlなどのスクリプト言語よりC言語こそが本当のプログラム言語だと考えている節があった。
絵とC言語で僕のことを役に立つと思った「カッパ」は試用期間の三ヶ月を待たずに正社員になれるよう会社側に働き掛けてくれた。
有り難かった。
給料が上がるから有り難かったのではない。実際金額はアルバイトと大差無い。
僕のことを役に立つ人間だと思って貰えたことが有り難かった。
大学を中退して社会から相手にしてもらえなかった自分が他人の役に立てることが有り難かった。
仕事をくれ認めてくれたカッパには今でも感謝している。